プリズム 〜5〜
寒風吹きすさぶ七里ヶ浜。
遠くには寒そうに、江ノ島の展望灯台の灯りが見える。
今日は風が強く、波が荒い。
そんな、サーファーすら引き上げた人気のない砂浜で、九郎は黙々と(?)木刀を振るっていた。
通り過ぎる車のライトを頼りに、砂浜に目を凝らしているシルエットが2人。
「あ〜、いたいた〜。本当だね〜」
「地の青龍は七里ヶ浜にいる。私には分かっていたよ」
「さ〜すが、白龍は龍神様だねぇ〜。ありがとう〜。
お〜い、九郎ぉ〜! お〜い! ダメだね〜、波の音で聞こえないのかな〜」
そう呟くと、景時は勢いよく浜辺へと下りる階段を駆け下りた。
「あ、景時、待って」
望美から譲られた防刃手袋をして、九郎は木刀を振るっていた。
「ふん! 右からきたら、こう! すかさず左の相手に、えい! 後ろに、や!」
「うわぁぉ! 危ないじゃないか、九郎〜!」
「あ! 景時! す、すまん。で、何か用か?」
「何か用か、じゃないよ〜。今が何時か分かってるのかい? 譲君の料理が冷めちゃうじゃないか」
「え? もう、そんな時間か?」
「あのさ〜、九郎。この星空を見てから言ってよね〜」
「私には分かる。神子と譲の怒気が高まっている」
「え!? それはまずいな……。それにしても白龍、お前まで、わざわざ呼びに来てくれたのか? 恩に着る」
「言の葉に乗せた神子の願い、『九郎を呼んできて』と」
「オレは朔が『九郎殿がどこにおいでなのかは、兄上が一番お分かりでしょう』な〜んて言うもんだからね〜」
「ハハハ、景時は相変わらず妹御には頭が上がらんようだな」
「九郎! 笑い事じゃないんだからね〜。朔怒らせたら、それこそ」
「それこそ?」
「3日間は口をきいてくれないんだよ〜」
「黒龍の神子は、景時のことをいつも案じているよ。神子はその気持ちを『兄妹愛』と言っていた」
「ハハハハックション!」
「ほら〜九郎、そんな薄着の上に、汗かいて〜。風邪引いちゃうよ。上着は〜?」
「だ、大丈夫だ。それに実は、羽織っていた上着は、風でどこかに吹き飛んでしまって」
「え〜! 大変じゃないか〜。どこどこ? どっちに飛んだの〜?」
「それが、……ここではないのだ」
「へ?」
「あそこの」
と江ノ島とは反対の方を指し示すのだった。
「あのさ〜、ちょ〜っと確認なんだけどさ〜
九郎が指さしてるの、すぐそこの稲村ヶ崎の出っ張りじゃぁ、ないよね〜」
「ああ、あそこに見える葉山の」
「あちゃ〜、やっぱり〜」
「長者ケ崎という、ハ、ハクション!」
「あ〜、明日、ね、明日探しに行くとして、今日はさ〜、早く帰って夕食にしようか〜」
「ああ、そうだなックション! す、すまん」
「私には分かるよ。九郎の衣服の在処。私が取ってこよう」
「いいっていいって。白龍、君が今度は食事に遅れて、望美ちゃんに怒られちゃうよ〜」
「景時の言うとおりだ。その上、譲も食事の時間には厳しいからな」
「だからね〜。九郎、木刀をしまって。これ、代わりに羽織っててよ〜」
「いや、それでは景時、お前が寒かろう」
「大丈夫大丈夫〜って。で、こうして」
「! な、何をするのだ?」
「こうして手をつないでポケットに入れると、暖かいだろ〜」
「し、しかしだな、男同士で手をつなぐなどと。しかも、これでは歩きにくいではないか!」
「慣れれば大丈夫だって。
それに実はさ〜、朔が望美ちゃんから教えてもらったんだよ〜
こうやって手をつないでポケットに入れてね〜。お互いの手を温め合うのって
『仲の良い人だけがする親切と信頼の証』なんだってさ〜」
「信頼の……証」
「そうだよ〜。九郎はどこに行っても俺達の総大将だからね〜。
風邪なんか引かれちゃ、オレもみんなも困っちゃうからね〜」
「……景時、済まん。恩に着る」
「アハハ〜、嫌だな、九郎。そんな他人行儀な」
「そうだな……」
そういうと、ポケットの中で九郎は景時の手を、堅く握り返すのだった。
「景時、私も私も」
「白龍。アハハ〜、そうだね。君にもホント、感謝してるよ〜」
そういって、景時は白龍の手を握り、反対のポケットへ入れた。
「これがヒトの温かさ。景時の心の温かさが伝わってくるよ」
「ホントかい〜。なんか照れるね〜」
「神子の『怒気』がそろそろ限界だよ。急ごう」
「ま、まずいな、急ぐぞ」
「御意〜」
「……景時」
「何かな〜、九郎?」
「これからも、よろしく頼む。俺達は、何時、如何なる時も、仲間だ! その信頼は絶対に裏切らん!」
「ハハハ〜、うれしいねぇ。こちらこそ〜」
平均身長180cmを超える、男3人(?)の手をつないで歩く姿は、
幸いなことに、この寒空の下、人目に触れることもなく、極楽寺の有川邸に到着したのだった。
1人を除いて。
その1人は寒風を避けるようにフードの端を掴んだまま、独り言つるのだった。
「相変わらず九郎は暑苦しいですね。
フフフ、それにしても『親切と信頼の証』……、ですか。これは良いことを聞きました」
11/07/24 UP